ラーメン好きなら押さえておきたい!
米国のラーメン業界で高い影響力を持つ人物を紹介します -ラーメンインフルエンサー編-

ラーメンをスマートフォンで撮影している様子と器に盛られたラーメンのイメージ

全国のラーメンファンの皆様、こんにちは!今回は、前回の記事「ラーメン好きなら押さえておきたい!米国のラーメン業界で高い影響力を持つ人物を紹介します -ラーメンシェフ編-」の続編として、米国ラーメン業界で要注目のラーメンインフルエンサーにスポットライトを当ててみたいと思います。前回の記事でも触れた通り、米国でのラーメンブームは様々な要因が重なって生じた社会現象ですが、個人的にはインターネット並びにソーシャルメディアから生じた口コミがラーメンブームの浸透に貢献した部分はかなり大きいのではないかと考えています。そして、このような状況で今回ご紹介するようなインフルエンサーがラーメンに対する情熱に突き動かされ様々なネットプラットフォーム上で取った行動は、それぞれが独自性を持ち非常に興味深いものとなっています。今回も前回同様に4名のインフルエンサーに絞って、彼らがラーメンブームの過程で辿ったユニークな足跡をご紹介できたらと思っています。それでは始めましょう!

 

  • Index

 

■マイク・サティノーヴァー (Mike Satinover / Ramen Lord)

味噌ラーメン

 

米国インターネット界隈においてラーメンに関して大きな影響力を持つインフルエンサーとして、まず一人目にご紹介したいのが、ハンドルネームRamen_Lordことマイク・サティノーヴァー氏です。マイク氏のラーメンに対する情熱は、彼が留学した際に訪れた北海道で出会った札幌味噌ラーメンによって火をつけられることになります。ちなみに札幌は味噌ラーメンの中心地とも呼べる場所です(詳しくは過去の記事「あなたはいくつ知ってますか?奥深いご当地ラーメンの世界」の札幌ラーメンの章をご参照ください)。彼はこの味を何とか再現すべく、米国に戻ってラーメンのレシピを研究し、トライ&エラーを繰り返します。その成果はredditのr/ramenにてRamen_Lordのハンドルネームのもとに次々とポストされました。その食欲をそそるラーメンイメージもさることながら、そこに添えられた細かなレシピ情報が多くのラーメンファンの注目を集め、いつしか彼のポスト内容は米国のインターネット界隈では、英語で記述された最も信用に足るラーメンレシピとなっていったのです。その極地が彼が2020年に作成した“The Book of Ramen”というe-bookです。ここには彼のこれまでのラーメンリサーチに関する集大成が凝縮しており、まさに圧巻の内容となっています。

彼の活躍はこれだけにとどまりません。これまでは本職のマーケティングリサーチャーとの掛け持ちで独自のラーメン探求を進めてきた彼でしたが、2023年にはとうとう彼自身のラーメン店である「Akahoshi Ramen」を彼の地元であるシカゴに開店するに至ったのです。興味深いのはこの店の看板メニューが、昨今人気の豚骨ラーメンではなく、彼のラーメンキャリアをスタートさせるきっかけとなった味噌ラーメンだということです。その味わいは親友である前述の島本圭造氏に「まさに自分が現地で味わった札幌ラーメンの味わいだ」と言わしめるほどで、そのことからも彼の生み出した味噌ラーメンの完成度の高さがうかがえます。味噌ラーメンは米国ではまだ豚骨ラーメンよりも高い知名度を誇っているとは言えませんが、札幌同様に冬の厳しい寒さで有名なシカゴにおいては、暖を取る食事として最適なアツアツの札幌味噌ラーメンは、大きな人気を得るポテンシャルを秘めています。ちなみに店名である「Akahoshi Ramen」の由来ですが、マイク氏にとってゆかりの深いシカゴと札幌がともにRed Star(日本語で赤星”Akahoshi”)を旗のデザインに選んでいるからのようです。今後味噌ラーメンブームが全米で巻き起こることになったら、その震源地はシカゴということになるかもしれませんね。

 

■ブライアン・マクダクストン (Brian MacDuckston / Ramen Adventures)

ラーメンをスマートフォンで撮影している様子

 

日本在住のブライアン・マクダクストン氏は、数多くいる日本のラーメンブロガーの中でもアメリカ出身のブロガーとして日本のラーメン業界の中で突出した存在です。これまで訪問したラーメン店はなんと約2,000店舗、日本全国を旅して収集したラーメンレポートは、自身のブログである「Ramen Adventures」に蓄積されており、この膨大なラーメンデータベースは米国の読者からも多く参照されています。

カリフォルニア州で生まれ育ったブライアン氏は大学でコンピューターサイエンスを専攻し、卒業後プログラマーとなりましたが、ストレスの多い仕事に辟易して離職。その後「日本に渡って英語教師になる」という求人に応募し、2006年に来日しました。そこで出会った豚骨ラーメンのおいしさに衝撃を受け、日本の多様なラーメンを世界に伝えるべく、ラーメン専門ブログであるRamen Adventuresを開設しました。また同名のYouTubeチャンネルも運用していて、こちらもブログ同様高い人気を誇っています。

ブライアン氏以外にも日本のラーメン事情を発信するアメリカ人ブロガーやユーチューバーは多く存在しますが、彼が他のインフルエンサーと一線を画すのは、日本のラーメンファンダムにおいても彼は日本語でラーメンに関する情報をテレビやネットなどあらゆるメディアを通じて配信することで、アメリカ人の視点から日本のラーメンの魅力を日本人に伝えるという非常にユニークな役割を果たしている点です。その最たる例は、彼が日本で出版した「最強アメリカ・ラーメン男 東京 極ウマ50店を食べる」という本で、アメリカ人の視点で選んだ東京のラーメン店を日本人に紹介する、という彼にしかできない異文化交流体験をラーメンという料理を通じて成し遂げているのです(ちなみにこの本は英語でも内容が記載されているので、日本に訪れる外国人旅行者向けのガイドブックとしても最適です)。

また、彼は外国人観光客をラーメン店に案内するというラーメンツアーも主催しているので、ガイドブックには掲載されていない地元の人で賑わっているようなラーメン店に足を運びたい方はぜひこちらまで問い合わせてみてください。日米のラーメン文化をつなぐラーメン伝道師としての彼の活躍にはこれからも目が離せません!

 

■エイブラム・プラウト (Abram Plaut / ramen beast)

次に紹介するエイブラム・プラウト氏は先に紹介したブライアン・マクダクストン氏と同様にアメリカ出身でありながら日本のラーメンに深い造形を持つインフルエンサーとして広くその名を知られています。サンフランシスコ出身のエイブラム氏は幼少期からアジア並びに日本の文化に興味を持ち(彼がアジア文化に興味を持ったきっかけが、彼がアジアのカンフー映画に強い影響を受けていたヒップホップグループのウータン・クランのファンだったことなのも興味深いです)、その流れから大学でも日本語を専攻することになります。そして交換留学生として訪れた日本で食べたラーメンに衝撃を受け、以降今日まで20年近くも日本に滞在することとなります。日本滞在中に食したラーメンは2,000杯以上とも言われ、他の追随を許しません。

そんな彼のラーメン店巡りに裏付けられた豊富な知識に注目した日本のプレイボーイ誌は彼に「ラーメンアメリカ人」というタイトルのラーメンコラムの連載を依頼します(ちなみにコラムのパートナーは先述のブライアン・マクダクストン氏です)。このことが日本のラーメンに造詣の深いアメリカ人という彼のパーソナリティを日本人のラーメンファンの間で強く印象付けたことは想像に難くありません。

ここからさらに彼は自身のラーメンに対する情熱を具現化するべく、すでに日本で多くのラーメン店を手掛ける庄野智治氏とともに、故郷であるサンフランシスコで「MENSHO TOKYO」を立ち上げることに成功します。先に紹介したマイク・サティノーヴァー氏は収集したラーメンにまつわる知識を基に自身でラーメンシェフとなり、故郷でラーメン店を開くことを成功させたわけですが、エイブラムさんは日本のラーメン職人をバックアップする形で地元に本格的なラーメン店をオープンさせたわけです。このエピソードは米国で本格的なラーメン店がオープンするに至るまでの過程が非常に多岐にわたってきたことを予見させます。サンフランシスコでのラーメン店立ち上げを成功させたMENSHO TOKYOは、その後も店舗を米国内外へと展開させており、そこで日本のラーメンに対する造詣の深さと米国のラーメン事情に精通したエイブラム氏が果たした役割の大きさは容易に想像できます。今後米国ラーメン事情を予測する際には、彼の一挙手一動に注目する必要がありそうです。

また、彼は日本で蓄積した豊富なラーメン情報を「Ramen Beast」というアプリの形で提供しており、初めて日本を訪れる旅行者に充実したラーメン体験を届けることに大きく貢献しています。あらゆる角度から日本のラーメンの魅力を伝えるために奮闘するエイブラムさんですが、彼の原点であるラーメン店巡りは今なおとどまることなく、彼のInstagramアカウントでは日々彼が見つけた魅力的なラーメンがポストされ続けています。

 

■ハンス・リーネッシュ (Hans Lienesch / The Ramen Rater)

ハンス・リーネッシュ氏のイメージ

 

最後に紹介するハンス・リーネッシュ氏は、これまでに紹介したインフルエンサーとは異なるアプローチでラーメン業界に影響力を持つインフルエンサーです。彼はラーメン店で提供されるラーメンではなく、スーパーマーケットで販売されているインスタントラーメンに着目し、そのレビュー情報を自身のブログである「The Ramen Rater」で日々更新しており、熱心なラーメンファンのみならずラーメンを製造販売する企業からも注目を集めています。ブログでは世界各国のインスタントラーメンを取り上げており、2002年から開始したレビューは2024年12月時点でその数はなんと5,000件以上に達しています!多種多様な商品が生まれては消えていくインスタントラーメン業界にとって、もはやこれは貴重な歴史的ドキュメントとなっているといっても過言ではありません。

ワシントン州シアトル出身であるハンス氏のインスタントラーメンとの出会いは、最寄りの日系スーパーマーケットである「Uwajimaya」でした。そこで商品棚に陳列されている異国の言語で表記された多種多様なインスタントラーメンを見つけた若き日のハンス少年はそのエキゾチックな魅力に圧倒されました。このことが後に彼が唯一無二のインスタントラーメンレビューサイトであるThe Ramen Raterを運営する原動力となったことは想像に難くありません。

 

豚骨ラーメンと味噌ラーメンのイメージ

 

The Ramen Raterには通常のインスタントラーメンレビュー以外にも、国や辛さのカテゴリーでまとめたタイプ別トップ10ランキングなどインスタントラーメン好きにとって興味深いコンテンツが目白押しなのですが、その中でも特に注目したいのが「Meet the Manufacturer」というセクションです。ここではハンス氏がインスタントラーメンメーカーに直接インタビューした内容がアーカイブ化されており、NissinやNongshimなど名だたるメーカーがそのインタビューリストに名を連ねています。実は私たちMyojo USAも過去にThe Ramen Raterからインタビューを受けたことがあり、その時の記事はこちらで閲覧することができますので、興味のある方は是非ご覧ください。

 

■結論

今回は前回に引き続き米国ラーメン業界で強い影響力を持つ方々を、特にインターネット上で存在感を発揮しているインフルエンサーに絞ってご紹介しました。いかがでしょうか?前回の記事も含め、ここで紹介した方々はすべて何らかの形で米国で起きたラーメンブームを盛り上げた方ですが、同時に今なお高い影響力を持ち続け、ブームを超えてラーメンを米国の食卓に定着させた立役者であるといえるかもしれません。個人的には、今回の調査の中で発見した、紹介者の一人である中村栄利氏の「ニューヨークのステーキが美味しいのは、ステーキオタクが多いからだ。それがステーキ文化を作っている。日本と同じで、ラーメンオタクが多いからラーメンが発展した。」という発言が非常に印象的でした。そうです、ブームを作るのはその料理自身がおいしいことはもちろんのこと、そのブームを盛り上げるファン並びにそうしたファンの情報に対する渇望に応えるインフルエンサーの存在が切っても切り離せないのです。ラーメン自身の奥深さが持つ魅力とそこに引き付けられたファン、更にはこうしたファンの期待に応えようと奮起するラーメンシェフが織りなす相乗効果ともいえるラーメンブームは、これからも新しい潮流を生み出してくれることでしょう。そのことが今から楽しみです。

それでは今回の記事はここまでにしたいと思います。次回も皆さんの興味を掻き立てるトピックを用意していますので、楽しみに待っていてくださいね!

 

Reference links:

Obsessed: We Talk to Reddit’s /u/Ramen_Lord
The Ramen Lord – Chicago Magazine
Akahoshi Ramen, Now Open in Logan Square, Is Chicago’s Toughest Reservation – Eater Chicago
ABOUT ME – THE RAMEN RATER
The Ramen Rater Is Your Guide to the Tastiest Ramen Noodles Available | Lifehacker
Hans Lienesch – Serious Eats
INTERVIEW WITH BRIAN MACDUCKSTON (RAMEN BLOGGER)|experience SUGINAMI
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