「これってマナー違反?」ラーメンを食べるときのマナーについて考えてみました

近年、アメリカでは2000年代後半に発生したラーメンブームをきっかけに、急激な勢いでラーメン店が店舗を増やしています。その数はおよそ1,500件 (参考: Ramen Restaurants in the US – Industry Data, Trends, Stats | IBISWorld) となっており、おそらく以前に比べてお店で本格的なラーメンを食する機会も増えたのではないかと思います。そんな時に少し気になるのが、ラーメン店でのラーメンの食べ方に関するマナーではないでしょうか。特に、アメリカでは不作法とも思われる麺を啜る食べ方が日本では許容されているなど、少し混乱をする状況もあるかと思います。また、中には「本当にそのルールを守る必要があるの?」といった眉唾物のマナーもありますので、この際ラーメンに関して巷で取りざたされているマナーに関する情報を余すところなく解説していきたいと思います。ラーメンを食べる際に「ラーメンは麺とスープのどちらから先に食べるのが良いか?」「スープは全部飲み干すべき?」などが気になっている方は、ぜひこの記事を参考にしてください。

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■正しいラーメンを食べるマナーは存在するか?

1985年に日本で「タンポポ」というラーメンを扱った映画が製作されました。その作中で若き日の渡辺謙扮する登場人物にラーメンの食べ方を指南する先生が登場するのですが、その内容があまりに細かすぎて観られた方はびっくりすると思います(まだ観ていない方は以下のYouTubeビデオをどうぞ)。
 

 
もちろんここで描かれている内容は誇張されているもので、実際にこのようなマナーを実践している人に自分はお目にかかったことはありません。ただし、荒唐無稽と切り捨てるのは早計です。個人的な感想になってしまいますが、少しでもラーメンにこだわりを持っている日本人であれば、「麺とスープの比率を気にしながらラーメンを食べる」や「味を染み込ませるためにチャーシューをスープに沈ませる」など独自に生み出したマイマナーを多かれ少なかれ胸に秘めているのではないでしょうか。ラーメンに魅了された人々からそれだけのこだわりを引き出すくらいに、ラーメンは国民食として日本人に愛されていると言えそうです。

このように各々が独自のこだわりをもとにラーメンを食している状況があることを踏まえて、ラーメンを食べるときのマナーについて結論から先に述べさせていただきます。それは「ラーメンはあなたが好きなように食べたら良い」ということです。麺とスープのどちらから食べるのが良いかについても、スープをレンゲからの飲むべきかもしくはどんぶりから直接飲むのが良いかについても、スープをすべて飲み干すべきかについても、具を食べる順番についても、すべてあなたの自由です!もともとラーメンはカジュアルなファーストフードとして生まれたものなので、そこに形式ばったルールは存在しません。前述したとおりいろいろなこだわりを持ってラーメンを食べている方も多いと思いますが、そのようなマイマナーを他人に強要することがそもそもマナー違反であるともいえます(もちろん他人に迷惑をかけないための最低限のマナーは存在しますので、これらは後程紹介します)。

ただし一点だけこだわっていただきたいのは「ラーメンがおいしさを保っているうちに素早く食べる」ということです。ラーメンはあなたの目の前に提供された瞬間が一番おいしい状態となっており、以降は時間が経てば経つほど麺がスープを吸ってどんどん伸びてしまい、そのおいしさは失われてしまいます。オーダーしたラーメンが出来上がったら、そのラーメンのおいしい瞬間を味わうことに集中しましょう。ですのでラーメンは談話しながらの食事としては残念ながらあまり向いておりません。同様の理由で、ラーメンの写真を撮る際はあまり時間をかけずに手早く行うのが良いでしょう。
 

■ラーメンを上手に食べるコツについて

先の段落ではラーメンを食べるときに特に決まったマナーが存在しないことをお伝えしましたが、少しだけラーメンを食べるときに意識をしておくとよい、マナーと呼ぶにはちょっと大げさな「コツ」について共有いたします。これらを守らないことで非難をされるという類のものではありませんが、頭の片隅に入れておくことでラーメンを食べる際にスマートに振る舞うことができます。

  • 長い髪は束ねる
    特に女性で髪の長い方は、ラーメンを食べるときにスープに髪の毛が触れる危険があります。スープが触れた髪の毛は清潔とは言えませんので、それを避けるために髪をまとめられるようにヘアゴムなどを用意しておくのが良いでしょう
  • スープの跳ねを防ぐ
    麺を啜ることに慣れていない方は麺を啜る際にスープを飛び散らしてしまうこともしばしば。洗い立ての白いYシャツにラーメンのシミを発見した時のショックは計り知れません。また、被害が自分だけに及ぶのであればよいのですが、他人に対してスープを飛び散らしてしまうリスクもあります。ラーメンを啜ることに慣れてないうちは、一口の分量を減らしてみるか、レンゲにいったん麺を乗せてから啜ることをお薦めします。
  • いきなり卓上調味料を使用しない
    ラーメン店のテーブルに座ると、卓上には胡椒をはじめ様々な卓上調味料が用意されていることが多いです。ただしそれらを使用する前に、まずは提供された状態のラーメンスープを味わってみることをお薦めします。多くのラーメン店では、シェフがベストの味付けと考えている状態でラーメンが提供されていることが多いので、まずはその基本的な味付けを確認し、その後で好みに応じて卓上調味料を使用してみてください。

 

■麺を啜るのはマナー違反か?

 
アメリカ人から見て最も奇異に映る日本の食習慣の一つが「麺を啜る」という行為ではないでしょうか。一般的に礼儀正しいことで知られている日本人が、なぜラーメンを食する際には西洋文化圏ではマナー違反とされている食事中に音を立てる行為に抵抗がないのでしょうか。その行為に眉をひそめる方もいるかもしれませんが、そこには実は歴史的な背景と科学的な裏付けが存在します。

まずは歴史的背景から紹介します。時代は遡って江戸時代、栄養価の面で優れた蕎麦が人々にとって人気のメニューとなります。ただし蕎麦の風味は非常に微妙なもののため、その風味を十分に楽しむためには空気と一緒にそばを啜り、鼻からだけではなく口中からもその風味を味わう必要がありました。そのため、おそらく江戸時代の人は蕎麦の風味を十二分に楽しむために自然と啜って食べる技術を会得したと考えられます。また、江戸時代の蕎麦は屋台で提供されるファーストフードとしての側面を強かったので、ちょっと立ち寄って手っ取り早く空腹をしのぐために蕎麦を食べる方法として、麺を啜る方法が生み出されたとも考えられます。こうした食習慣が西洋からスプーンで食する文化が伝わる以前に形成されたことも大きいでしょう。こうして形成された「麺を啜る」という行為が、時を経て蕎麦に限らずあらゆるラーメンを含めた麺料理の風味を楽しむために適応され、日本独自の食習慣として定着したのです。

次に科学的な裏付けについてですが、これは先述の「口中からもその風味を味わう」という行為が関係しています。実は人間にはオルソネイザル(Orthonasal smell)とレトロネイザル(Retronasal smell)という二つの嗅覚経路があり、オルソネイザルが鼻から生じる嗅感覚、レトロネイザルが口中で呼気と伴う風味の感覚を意味します。「麺を啜る」という行為はレトロネイザルを通じて風味を味わうことと同義となりますので、鼻を通じての嗅覚のみに頼った味わい方よりも深く料理を楽しむことができることになります。またレトロネイザルはワインティスティングでも応用されています(ワインと空気を混ぜるように音を立てて吸い込むテイスティング方法を見たことがある方も多いと思います)。同じスープをスプーンで啜った場合と直接マグカップから啜った場合で比較した実験では、後者の風味の方をより強く感じたとする実験結果を得たケースもあったようです。

また、麺を啜ることによって熱い麺を適度に空気にさらすことで冷ますことができるため、ラーメンをスピーディに食することができるメリットがあります。これは、ラーメンがおいしさを保っているうちに素早く食べるために非常に適した食べ方と言えます。

以上のような理由で、日本では抵抗なく受け入れられている「麺を啜る」という行為ですが、アメリカでは音を立てて食事をすることを快く思わない方が多いことも事実です。ですので、麺を啜る前に同席者や周りにいる人が不快に思わないかを確認してから麺を啜っていただくのが良いかと思います。逆に「麺を啜る」方法はラーメンを食べるのに適した方法ではありますが唯一のラーメンの食べ方ではありません。ラーメンはカジュアルで自由な食べ物ですので食べ方だって自由です。麺を啜るのに慣れてない方や熱い食べ物が苦手な方は、ラーメンを食べる際にレンゲを用いて食べるのがおすすめです。箸の使い方に慣れていなければ、店員にフォークをリクエストしてももちろん問題ありません。

麺を啜って食べてみることにチャレンジしたい方は、まずはストローで水を吸う要領で麺を啜ってみてください。その際、啜れる適量の麺を見極めることと啜っている間は鼻で息を吐くことを意識してみるのがコツです。

最後に一点、食事中の大きすぎるノイズは麺を啜る習慣がある日本人にとってもマナー違反となりますので、その点はご注意ください。

 

■日本のラーメン店で意識したほうが良いマナーについて

次に、日本のラーメン店ならではの興味深いマナーの数々を紹介します。旅行で日本に訪れる機会がありましたら、ぜひ参考にしてみてください。中にはこれからアメリカでも定着するものがあるかもしれません。

  • 行列中は静かに並びましょう
    日本で人気のラーメン屋であれば店に入る前に行列に並ぶ機会も多いかと思います。行列に並ぶ場合は近隣の店や、住宅地に隣接している場所では近所の住民へ迷惑が掛からないように、列を乱さず静かに並びましょう。また、代表者だけが列に並び仲間が後から合流する方法は顰蹙を買いますので避けましょう。

Image by ©Dick Thomas Johnson, flickr.com

 

  • 券売機で手際よくチケットを購入しよう
    日本では効率的に店を運用するために、事前に食べたいものを選択してその券を購入するための券売機が入り口近くに設置されていることが多いです。こちらで注文したいメニューを選んでチケットを購入するのですが、初めての際は何を選んでよいか戸惑われると思います。そのような場合は、左上にお店のおすすめもしくは定番のメニューが記載されていることが多いので、こちらを選んでみてください。また、5千円札や1万円札などの高額紙幣は使えないところも多いので、事前に両替をしておきましょう。

Image by ©Kenneth Lu, flickr.com
     

  • 混雑時にグループで席が分かれたら別々に座りましょう
    日本のラーメン屋はスペースがそれほど広くないことが多いので、混雑時にはグループで店を訪れても隣同士で席を確保できない可能性があります。そのような場合は、店員の手間を省くためにグループで隣同士で座れる席が確保できるまで待つのではなく、席が空いた順に個別で着席しましょう。
  • 食べ終わったら速やかに店を出ましょう
    前述のとおり日本のラーメン屋はスペースがそれほど広くありません。ですのでラーメンを食べ終わったら速やかに席を立つことで、お店の回転率アップに協力しましょう。
  • 「ごちそうさま」と言ってみましょう
    ラーメンを食べ終わったら、退席時に「ごちそうさま」と言って店のマスターに対して感謝の意を表現してみましょう。言わなくても周りから非難されることはないですが(日本人でも言わない人はいます)、言われた側は確実に悪い気はしません。「ごちそうさま」という言葉には何やら深い由来があるのですが、日本人でもそこまで理解してこの言葉を使用している人は稀だと思います。ですので食事を用意してくれたお店に対して、気軽に感謝の意を込めて「ごちそうさま」と言ってみましょう。

 

■結論

今回はラーメンを取り巻く様々なマナーについて取り上げてみました。結論としていえるのは、ラーメンはあくまでカジュアルな食べ物なので、他人に迷惑をかけない限りは基本的には自由に食べていただいて構わない、ということです。そうしたカジュアルさこそが、ここまでラーメンがアメリカで人気のメニューになった理由の一つでもあるともいえるのではないでしょうか。ですのでこれからも自分にあったスタイルでラーメンを楽しんでいきましょう!

最後に、次にラーメン屋でラーメンを食べる機会があれば、店を出る際に試しに「ごちそうさま」と店員に言ってみてください。もしスタッフが日本人であればきっと喜ばれること間違いなしです!
 

参照:

Ramen Restaurants in the US – Industry Data, Trends, Stats | IBISWorld
5000杯食べたマニアが解説!ラーメン店での注文方法とマナー集 | MATCHA RAMEN MAGAZINE
はねない、汚れない! らーめんのきれいな食べ方をマスターしよう|らーめんの幸楽苑がおくるライフスタイルWEBマガジン
Rude Abroad but Fine in Japan – The Top Reasons Why Japanese People Slurp their Noodles | tsunagu Japan
‘Isn’t That Rude?!’ The Weirdly Complex Background Behind Noodle Slurping | LIVE JAPAN travel guide
How to Eat Ramen in Japan – Etiquette and Unspoken Rules
What You’re Doing Wrong When You Eat a Bowl of Ramen – Bloomberg
What not to do when eating noodles | Jetstar
Ramen Etiquette and Rules: How to Enjoy the Japanese Way – Umami Insider
A Cultural History of Noodle Slurping | Nippon.com
HOW TO EAT RAMEN: MAN, I’M HAVING THE MOST AMAZING EXPERIENCE – APEX S.K.
Itadakimasu and Gochisousama – Learn Japanese Manners – VOYAPON
香りのサイエンス|ファーネットマガジ
Watch a Chef Demonstrate the Proper Way to Eat Ramen – Eater
It’s Not Rude — Slurping Makes Food Taste Better | Discover Magazine