「ラー油」「マー油」「鶏油」など、ラーメンの個性を決める立役者、香味油についてご紹介します。

白いどんぶりに盛り付けられたラーメン

全国のラーメンファンの皆様、こんにちは!素敵なラーメンライフをお過ごしでしょうか?本日は、ラーメンの味わいを決定づけると言っても過言ではない「香味油」についてご紹介します。以前の記事 (ラーメンっていったい何だろう? 要素と歴史を押さえればラーメンの“今“が見える!)で、ラーメンのスープが「出汁」と「たれ」、そして「脂/油」を組み合わせることで作られることをご紹介しましたが、ラーメンスープを構成するこれらの要素にはそれぞれ明確な役割があります。出汁はラーメンにうまみをもたらし、(醤油、味噌などの)たれはラーメンの味付けに明確な方向性を示します。そして脂/油は、ラーメンの味わいに対して、初めに一口食べたときのインパクトや個性を演出する非常に重要な役割を果たします。本日ご紹介する「香味油」は、この脂/油に当たります。いまでは定番となった香味油から、今後注目されることが期待される香味油まで幅広くご紹介しますので、最後までじっくりお楽しみください。それでは始めましょう!

 

  • Index

 

■そもそも香味油とは?

一般的に香味油とは、食材の香味を油(植物系のサラダ油、ごま油や動物系のラードなど)に付与したものとなります。使用される油と食材の組み合わせ次第で、生み出される香味油の種類は無限大に広がります。ラーメンに使用する香味油だけでも、一般的に使用される食材は、ネギやニンニクなどの野菜系、エビ、ホタテ、カニなどの魚介系、トウガラシなどのスパイス系など多岐に渡っています。このような食材の無限の組み合わせの中からそれぞれのラーメンにぴったりの香味油を生み出すことが、ラーメン店にとっての腕の見せ所の一つとなっているわけです。
冒頭で、香味油の役割は、味の個性を演出することだとお伝えしましたが、もともとは出汁を取る際に素材から出る臭みを消す、消極的な理由で使用されるところから始まりました。しかし良質な素材から出汁を取ることと、丹念なあく取りで臭みを元から断つことに成功した後は、その名の通りスープへの香りづけや、さらには味そのものへのインパクトを与える方向にシフトしていったのです。また香味油を用いることで、麺を持ち上げるときに風味が絡みやすくなる効果もあります。さらに、香味油が果たす役割として付け加えたいのが、油膜によってスープに蓋をすることで、ラーメンのスープが冷めないようにするというものです。このように香味油の果たす役割を一つ一つ確認するだけでも、ラーメンを少しでもおいしい状態で食べてもらいたいという料理人の気配りがうかがえます。

 

■ラーメンで使用される香味油

香味油はラーメンに限らずあらゆる料理で使用されるものですが、ここからはラーメンによく使用される香味油をいくつかご紹介します。

・ねぎ油

ねぎ油

 

おそらくラーメンが誕生した初期から使用されていた香味油が、ねぎ油だったのではないでしょうか。ねぎ油はその名の通り、ねぎににんにくを加えてサラダ油とともに加熱して香りをつけたものです。ねぎ油は中国料理でよく用いられる香味油で、このようなところからもラーメンの中国料理からの影響がうかがえます。ねぎ油の味わいをそのまま個性として標榜しているラーメン店は多くありませんが、各ラーメン店が独自の香味油を調合する際に、ねぎ油のフレーバーを味わいの要素の一つとして据えていることは大いに考えられます。またねぎ油ではありませんが、素材のネギを炒めた「焦がしネギ」の味わいをラーメンの個性としているラーメン店は非常に多く見かけることから、ねぎは根強いファンがいる食材といえるでしょう。
 

 

・鶏油

鶏油

 

鶏油は、鶏皮を炒めて抽出した油(脂)で、こちらも中国料理が由来となっています。厳密には「食材の香味を油に付与したもの」という香味油の定義から外れるものではありますが、ラーメンに不可欠な脂として今回ご紹介しました。ラーメンでは、仕上げに数滴たらして風味づけに用いることで、まろやかな味わいと独特の香りづけを行うことができます。あらゆるラーメンで使用される万能な鶏油ですが、特に横浜家系ラーメンで使用されることで日本のラーメンファンの間ではお馴染みです。鶏油を抽出した後の鶏皮も、塩コショウを振れば、パリパリとおいしくいただける立派な酒のおつまみになりますので、ご家庭で鶏油にチャレンジしようと思う方はそちらもぜひお楽しみください。

 

・マー油

マー油

 

これまでご紹介したねぎ油と鶏油は中国由来のものでしたが、ここでご紹介するマー油は日本で生まれました。マー油は熊本ラーメンで有名な「桂花」で、当時調理担当をしていた台湾出身の劉壇祥が開発しました。作り方はにんにくを何段階かに分けてラードで揚げたのちに、ペースト状になるまですりつぶすというものです。このマー油をとんこつラーメンに加えることで臭みを消しつつコクとうまみを引き出すことができ、今では熊本ラーメンを語るうえで欠かすことのできない非常に個性的な香味油として認知されています。ちなみに名前が似ているものとしてよく「馬油」と「麻油」があげられますが、前者は馬から抽出される脂でスキンケア用品として使用されるのに対し、後者は中国語でごま油を意味しますので、ご注意ください。

 

・ラー油

ラー油

 

最後にご紹介したいのがこちらのラー油です。日本においてラー油はどちらかというとラーメンよりも餃子のたれに使用することが多いですが、昨今は担々麺などスパイシー系ラーメンの味わいを決定づけるのに重要な役割を担っています。ラー油は皆様のご想像の通り、中国由来の香味油となりますが、意外とその歴史は浅く17世紀前後に生まれたとされています。ラー油で使用されている唐辛子の原産地は南米であり、その唐辛子が中国に伝わったのがその頃といわれているからです(ということはそれ以前には麻婆豆腐はなかったことになりますね)。ごま油に唐辛子を加えて加熱し、油に香味をつけるというシンプルな作り方ですので、ご家庭でもお試しいただけます。もしご家庭でラー油を作る機会がありましたら、ぜひ以下の担々麺レシピにそのラー油を使用してみてくださいね。
TAHINI TANTANMEN

 

■結論

今回は、ラーメンの味わいに個性をプラスする香味油についてご紹介しました。いかがだったでしょうか?今回取り上げた香味油はすでにラーメン業界ではお馴染みのものばかりですが、これ以外にも新たにラーメンに取り入れられつつある香味油を見つけましたので、最後にご紹介したいと思います。

 

・トリュフオイル

ニューヨーク発のMomofukuやミシュランガイドで一つ星を獲得したことで有名なが、すでにトリュフ味を特徴としたラーメンを提供して注目を集めています。高級志向を目指すラーメンレストランであればメニューの検討時に避けては通れないフレーバーとなるでしょう。

・オリーブオイル

オリーブオイルも厳密には香味油ではありませんが、近年銀座に店舗を構えるむぎとオリーブを筆頭にラーメンに用いられることが増えてきた油ですので、ここでご紹介させていただきます。上質なパスタの仕上げにエキストラバージンオリーブオイルを使用するようにラーメンにも用いられ、その優しくもまろやかな味わいは特に女性からの人気を集めています。

・花椒油

2019年ごろ、日本では本格的な四川料理において特徴的な「麻辣」味が一大ブームを巻き起こしました。ここでいう「麻」は山椒や花椒のしびれる辛さで、「辣」は唐辛子の辛さを意味します。昨今では特に「麻」の要素を取り入れて斬新な味わいを提供するラーメン屋が日本で増えていますので、アメリカでも今後の盛り上がりが期待されます。

・海老油

かつては国民一人当たりの海老消費量が全世界一位であったりと、日本人の海老好きはとても有名です。そんな日本ならではの香味油といえば、海老の殻を炒めて油に香りづけした海老油があげられます。アメリカでも海老の殻からスープを作るビスクのような例があるので、その味わいは抵抗なく受け入れられるのではないかと思います。

また今回の調査で気づいた点としては、前回の出汁に関する記事(うま味の秘訣は出汁にあり!ラーメンにおける出汁について調べてみました)で指摘させていただいた「出汁における中国由来素材から日本由来の食材へのシフト」が、香味油に関してはあまり見られなかった点です。とはいうものの、海老油を筆頭に日本由来の食材をベースに作成された「煮干しの香味油」や「鰹節の香味油」を用いたラーメンなども近年は登場していますので、香味油をめぐる動きはまだまだ目を離せません!
おそらくアメリカではこれからもラーメン店が増えていくことが予想されます。そんな中で各ラーメン店は他店舗との差別化を図るために、多種多様な香味油を用いて味に個性を加えた、新たなラーメンを開発していくことが予想されます。そんな活気を帯びたラーメン市場の中で、まだ見ぬ斬新な香味油を用いた自分好みのラーメンに出会えることを願って、今回は筆をおきたいと思います。次回もラーメンファンの方に喜んでいただけるトピックを用意して待っていますので、楽しみにしていてくださいね!

参考リンク:
ラーメンを食べる前に知っておきたい、出汁・タレ・香味油について | ガンガンいこうぜ
ラーメン見聞録「ラーメンにおける香味油の役割」について考察 – フードマニア Food Mania by 旭屋出版
オイルのこばなし4コマ・やっぱり油料理後進国!?日本食と食用油の始まりとは/乙幡啓子 | オリーブノート公式 – カラダに美味しい、オイルのノート
ラーメンスープの本質―大和ラーメン学校開設以来17年の積み重ねによるラーメン店店主も知らない課題解決:第三章
香味油 – Wikipedia
鶏油 – Wikipedia
マー油 – Wikipedia
ラー油 – Wikipedia
ネギ油とは?作り方や保存方法などについて解説! | DELISH KITCHEN
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