うま味の秘訣は出汁にあり!ラーメンにおける出汁について調べてみました

麺と出汁の材料である昆布、かつお節と椎茸

全国のラーメンファンの皆様、最近寒い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか?こんな日が続くと外に出るのも 億劫になることもありますが、こんな時だからこそ、おいしくいただけるのがラーメンです!冷えた体を内側から温めてくれる熱々のラーメンスープは、寒い冬にピッタリのメニューですので、ご家庭やお店でラーメンを食べて冷え切った体をポカポカにしてください!
そんな寒い季節にもおいしくいただけるラーメンですが、その要である熱々のスープの中にはいったい何が含まれているのでしょうか?以前のブログ記事(ラーメンっていったい何だろう? 要素と歴史を押さえればラーメンの“今“が見える!)でも触れましたが、ラーメンのスープは大きく分けて「出汁」と「タレ」、そして「脂/油」にその構成要素が分かれます。その中でも今回は「出汁」に注目してみたいと思います。ラーメンがもたらすおいしさについて異論はないと思いますが、我々がラーメンをおいしいと感じるうえで重要な「うま味」成分を、出汁は非常に多く含んでいます。今回の情報を知ることで、ラーメンをよりおいしく味わうことができるかもしれませんよ。それでは張り切ってまいりましょう!
 

  • Index

 

■日本における「出汁」の歴史

お玉ですくった出汁

 

まずは、日本における出汁(≒broth)の歴史を簡単に紐解いてみましょう。実はその概念の誕生は古く、縄文時代にまで遡ることができます。その頃の人類は縄文土器を作り出し、火を用いて、生食では食べづらいキノコや貝、魚や肉などを煮て食べることを思いつきました。その過程で、同時にそれら食材の旨味が煮汁に溶け出していることにも気づいたのです。その発見が出汁という概念の始まりだと言われています。
日本において、出汁を取る上で代表的な二大素材は「昆布」と「かつお」ですが、これらの歴史も非常に古く、奈良時代には既に文献に登場しています。その頃、昆布は朝廷への献上品として、かつおは朝廷へ納める税として利用されていたようです。
ただし、「出汁」という言葉そのものが一般的になるのは、江戸時代まで待たなければなりません。その頃には出汁の記載が見られる料理書も発見されており、ようやく料理において出汁を利用する、ということが一般にも広がったようです。なお、先に述べた昆布とかつお以外に出汁を取る上でよく利用される素材としては、煮干しや干し椎茸が挙げられます。ちなみに、かつおは江戸時代に燻製による製法が確立され、保存性が高く、うま味も凝縮した鰹節へと進化しました。
日本人は出汁に非常にこだわることで知られていますが、それには理由があります。実は江戸時代初期頃まで、仏教による肉食禁止の教えが広まっていたことなども影響して、日本では家畜を食べる習慣がほとんどありませんでした。その結果、日本人は主に米を中心とした穀物と魚介類、野菜を食べていました。しかし、これらの食材そのものが持つうま味は、どうしても肉が持つうま味に劣ってしまいます。そこで、そうした食材のうま味を補うために日本では出汁が発展したという訳なのです。

 

■なぜ日本人が「うま味」を発見できたのか?

昆布、椎茸と煮干し

 

冒頭で、出汁が「うま味」を多く含んでいることをお伝えしました。今となってはこのうま味が、甘味、酸味、塩味、苦味と並ぶ第五の味覚であることを知る方は多いと思います。また、舌にはうま味を感じる能力があり、さらにうま味を示す物質であるグルタミン酸が存在することを発見したのが、日本人の池田菊苗であることも、料理に精通している方であればご存じの方もいらっしゃるかもしれません。ここでふと疑問に思うことがあります。なぜ、世界に先駆けて日本が「うま味」の存在を発見することができたのでしょうか?ここには非常に興味深い理由が存在しました。この章ではその点を特に掘り下げてみましょう。
実は、日本の出汁のように素材を煮出して料理にうま味を抽出する調理方法は、世界を見渡しても、フランスの「ブイヨン」や中国の「湯」など数多く存在します。ただし、日本の出汁は世界各国の調理方法と比較した際に、ある際立った特徴が存在します。それは日本の出汁が、昆布や鰹節など、熟成してうま味が凝縮した素材をもとに、短時間の調理でうま味を引き出す点にあります。対して、例えばフランスのブイヨンであれば、牛、鶏、魚など生の素材を野菜などとともに、長時間煮込んで作ります。その結果、ブイヨンには各種のアミノ酸が含まれ、複雑な味わいをもたらすことになります。それに比べ、日本の技法で作られた出汁に含まれるアミノ酸は、うま味物質であるグルタミン酸やイノシン酸などからなるシンプルな構成となっています。
思うにこのシンプルさが、日本が世界に先駆けて「うま味」にいち早く気づくことができた要因なのではないでしょうか。出汁並びにそれを利用した日本料理のうま味構成がシンプルであったがゆえに、塩味や酸味など他の味覚と区別して、うま味の存在に気付くことができたのではないでしょうか。日本の水が、昆布や椎茸、鰹節、煮干しのうま味が出やすい軟水であることも幸いしました。対して欧州の水は、素材からのうま味成分抽出を阻害する硬水であることが多いため、日本の出汁のように短時間で素材からうま味を引き出す技法は発展せず、その結果長時間煮込んでうま味を引き出す技法にたどり着いたと考えられます。

 

■「うま味の相乗効果」とは?

出汁の材料である昆布、かつお節、椎茸と煮干し

 

現在よく知られているうま味物質は、昆布や野菜に含まれているアミノ酸系の「グルタミン酸」と鰹節や肉に含まれる核酸系の「イノシン酸」、干し椎茸に含まれる同じく核酸系の「グアニル酸」が挙げられます。実は、これらは単独で摂取するよりも、アミノ酸系のうま味物質と、核酸系のうま味物質を組み合わせることで、うま味が飛躍的に増すことが科学的に証明されています(8倍程度うま味が増すといわれています)。これを「うま味の相乗効果」と呼びます。しかし、このことが科学的に証明されるよりも前に、うま味の相乗効果は世界中で利用されていました。フランスのブイヨンでは、グルタミン酸を含む野菜とイノシン酸を含む牛肉を素材として、それらを組み合わせて利用されていますし、中国の湯を作る際には、グルタミン酸を含む長ねぎ、しょうがとイノシン酸を含む鶏肉の組み合わせが見られます。そして、日本においてはグルタミン酸を含む昆布と、イノシン酸を含む鰹節の組み合わせで出汁を取る技法が、経験的に確立されていました。この技法は「合わせ出汁」と呼ばれ、江戸中期頃に大阪で生み出されたといわれています。国と素材は違えど、本能的に旨味を効果的に引き出す技法に共通してたどり着いている点が、非常に興味深いですね。

 

■ラーメンにおける出汁の移り変わりについて

ここまでは、日本料理で一般的に使用される出汁について、その発生から詳細を掘り下げてみました。次にこのように独自の出汁文化を持つ日本が、ラーメンを生み出したときにどのような出汁を採用したのかについて、まずは見てみましょう。
日本で初めてラーメンが誕生したのは、20世紀の初頭と言われています。その時に生まれたラーメンで用いられたスープは、鶏ガラや豚骨など動物ベースの出汁と醤油だれを合わせたものだったといわれています。このことはすなわち、日本で長い歴史と伝統を誇る昆布や鰹節で作り出された出汁は、黎明期のラーメンにおいては採用されなかったということになります。正確には、昆布や鰹節も出汁を取るための素材として一部のラーメンで採用されることはありましたが、ラーメンにおける出汁のメイン素材は、あくまで鶏ガラや豚骨などの動物系のものからスタートしたといえそうです。これは、日本初のラーメンと呼ばれている「来々軒」のラーメンが、広東省の料理人によって生み出されたことが理由と考えられます。彼らはラーメンを考案する際に、中華料理の技法である鶏ガラベースの出汁を使用し、日本人に受け入れられるよう、彼らの好みに合わせて醤油ダレを合わせることを思いついたのです。中華技法の出汁に日本由来のタレ、このコンビネーションが日本におけるラーメンスープの原点となったのです。

青葉の中華そば
中華そば青葉のラーメン
Image by ©Richard, enjoy my life! Flickr.com

 

そしてラーメンの誕生から時を経て、様々なラーメンバリエーションが誕生しました。その中には、より日本人の好みに合わせるために、昆布や鰹節、煮干しなど魚介系の素材を、出汁を作る際に取り入れるラーメン店も増えてきましたが、あくまでラーメンにおける出汁作成時の素材の主役は(一部のご当地ラーメンを除き)鶏ガラや豚骨など動物ベースのものである、という時期がしばらく続きました。ところが、魚介系素材で出汁を取ったラーメンスープに脚光が当たる出来事が1996年に起こります。それが「ダブルスープ」を発明した芳賀良則氏による、東京都中野区にあるラーメン店「中華そば青葉」の創業です。豚骨や鶏ガラなど動物系のスープがもたらすパンチ力と、鰹節や煮干しがもたらす風味豊かな味わいを両方兼ね備えた重層的な味わいのダブルスープは、当時のラーメンファンに驚きをもって迎えられました。先に述べた通り、魚介系の素材をラーメンの出汁を作る際に取り入れることは以前から行われていましたが、ダブルスープが革新的だったのは、豚骨や鶏ガラなどの動物系出汁を作る寸胴と、鰹節や煮干しなどの魚介系出汁を作る寸胴を分けた点にありました。実は動物系の素材と魚介系の素材ではうま味を引き出すための最適な煮込み時間や煮込む温度が異なるため、異なる寸胴で煮てそれぞれの出汁のうま味を最大限に引き出したうえで、お客様に提供する直前に、それぞれの出汁を合わせる手法が考案されたのです。このダブルスープが、これまで動物系出汁の存在感が強かったラーメンスープにおいて、魚介系出汁にスポットライトが当たるようになった契機と考えられます。

 

煮干しラーメン
煮干しラーメン

 

その後、創作ラーメンブームも後押しし、ラーメン店がラーメンスープにおいて新たな味わいを模索する際に、魚介系素材にも注目して味の組み立てを行うラーメン店が増えてきました。その中で筆者が特に注目したいのが、「煮干しラーメン」です。煮干しラーメンはもともとは青森県津軽地方で提供されていたご当地ラーメンですが、現在日本では東京を中心に人気を集めています。その特徴は、その名前からもうかがえる通り煮干しの味わいが前面にフィーチャーされていることです。現在、日本で提供されている煮干しラーメンは大きく分けて透き通ったスープを採用しているものと、煮干しスープと鶏ガラや豚骨スープを合わせた濃厚系スープを採用しているものがありますが、都内では濃厚系の方が人気を集めているようです。ただし、煮干しラーメンは煮干しの味わいが前面に出ているがゆえに、その特有の臭みや苦みを苦手とする方も多いようです。また、煮干しの癖の強い味わいがアメリカで苦戦することも予想されます。ただ、豚骨ラーメンのように一見癖の強い味わいのラーメンがアメリカで受け入れられた経緯もありますので、煮干しラーメンにはぜひアメリカに進出してほしいところです。

 

■結論

本日は、ラーメンスープを作る上で重要な要素である「出汁」について深く掘り下げてみました。いかがだったでしょうか?個人的には、今回の調査で当初は中国の動物系出汁の影響が強いラーメンが、日本独自の魚介系出汁文化の影響を徐々に取り込み、現在では、日本の出汁文化が多様な創作ラーメンを生み出していく原動力となっている点を確認することができたことが印象的でした。
最後に、近年の日本のラーメン出汁のトレンドを紹介して今回の記事を締めたいと思います。最近日本でブームとなっている出汁素材は、ハマグリやアサリ、しじみ、牡蠣などの「貝」です。貝には、これまでうま味成分としてよく利用されてきたグルタミン酸やイノシン酸と異なる、「コハク酸」といううま味成分が含まれているため、その新しさが注目を集めているようです。
また、貝以外にも、従来とは異なる素材で出汁を取ろうという動きに関しては、枚挙にいとまがありません。一例を挙げると、魚介類ではマグロ節、鯛、エビなどを出汁素材として使用したラーメン店が挙げられます。また動物系でも、鴨を使用して出汁を取っているラーメン店が存在します。
ここで挙げた素材は日本という地域に根差したものが多いようにも見えますが、実はラーメン出汁に対する探究は日本料理の範疇をすでに超えています。一例を挙げると、既に出汁にフレンチのフォン・ド・ヴォーを採用しているラーメン店があります。また、それ以外にもフレンチ出身のシェフが、フレンチの技法をラーメンづくりに応用している例も見つけることができます。このような出汁にまつわる新しく考案された素材を眺めてみると、改めて日本人の出汁に対するこだわりをまざまざと感じることができます。
このように日本では出汁をめぐるラーメン業界の動きは、今なお活気を帯びているのですが、日本で人気を獲得した出汁素材をフィーチャーしたラーメンのいずれかが、近い将来アメリカに上陸することもあるかもしれません。いずれにしても、日米を問わず今後のラーメントレンドを予測する際に、それぞれの地域で人気の出汁素材に注目してみることは非常に有効な手段だといえるのではないでしょうか。
本日の内容は以上となります。次回もラーメン好きの方に喜んでいただけるようなトピックを用意しておりますので、楽しみにしていてくださいね!

 

Reference links:
出汁 – Wikipedia
湯 (中華料理) – Wikipedia
ブイヨン – Wikipedia
フォン (料理) – Wikipedia
Broth – Wikipedia
Stock (food) – Wikipedia
Soup – Wikipedia
Consommé – Wikipedia
Umami – Wikipedia
What Is Dashi, The Fastest Route To A Flavorful Meatless Broth | Bon Appétit
特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター
うま味の相乗効果で料理をおいしくするテクニック! | まいにち、おだし。
What is Dashi? A Guide to Japan’s Integral Ingredient | Let’s experience Japan
What is Dashi? Everything You Need to Know About Japanese Soup Stock
How To Make Dashi だしの作り方 • Just One Cookbook
出汁をとるだけじゃない!「乾物」イロイロ、便利でおいしいレシピ集 | キナリノ
日本のだし文化っていつから?歴史を知って料理に活かそう|コラム|鰹節・だし専門店 通販のことならにんべんネットショップ
だしの歴史 – あごだし等の専門店 あご匠松井【直営・新鮮】
ダシはなんで美味しいのか?ダシの歴史を掘り下げてご紹介 | 業務用だし開発.com
だしの起源と変遷│33号 だしの真髄:機関誌『水の文化』│ミツカン 水の文化センター
中華そば青葉の公式HPにようこそ!
津軽ラーメン – Wikipedia
煮干しラーメン – イーコネクション株式会社
煮干しラーメンの発祥は青森!津軽ラーメンの元祖のお店はどこ? | 人生やり直しバイブル
青森「煮干しラーメン」・元祖の店から注目の進化系まで食べ歩きの旅│観光・旅行ガイド – ぐるたび
東京「煮干しラーメン」ブームの裏にある暗闘 | 井手隊長のラーメン見聞録 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
ラーメン界に「貝だし」ブーム到来 東京「琥珀」大躍進に見る業界の期待と憂い(1/3)〈AERA〉 | AERA dot. (アエラドット)
2021年ラーメントレンドを総括! 大崎裕史たちが“進化・変化元年”と呼ぶ今年の注目ジャンル&キーワードは? – FASHION BOX
進化し続けるラーメン!専門家に聞いた「今年のトレンド麺」と注目の3店 – LIVE JAPAN (日本の旅行・観光・体験ガイド)
ラーメン見聞録「最近のラーメンの貝出汁」について考察 – フードマニア Food Mania by 旭屋出版
マグロ!エビ!アサリ!スープにこだわる魚介系ラーメン8選|ウォーカープラス
ダシにこだわった渾身の一杯!いま注目の「だし推しラーメン」6選 | 街ニュース | 新潟の街ニュース&ローカル情報 Komachi Web(こまちウェブ)
全国ご当地ラーメン – ラーペディア – 新横浜ラーメン博物館
シェフの技あり個性あり。フレンチ仕立ての創作ラーメン「麺や一途」 | NACORD(ナコード)
通も唸る「フレンチラーメン」4選 シェフこだわりの濃厚スープにやみつき