8/5は発酵の日! 味噌や醤油など、発酵とラーメンの関係について考えてみました。

大豆と醤油

全国のラーメンファンの皆様、こんにちは!素敵なラーメンライフをお過ごしでしょうか?本日もあなたのラーメンに対する見方が変わる(かもしれない)耳寄りな情報をお届けしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
今回の記事のタイトルでも触れている通り、8/5は「発酵の日」として制定されていますが、なじみのない方が多いかもしれません。それもそのはず、この記念日は日本特有のもので、発酵食品の魅力を広めるために味噌の製造で知られるマルコメ株式会社によって制定されたものです。また驚くべきことに8/8も「発酵食品の日」として記念日に認定されています。こちらは健康食品を主に手掛ける万田発酵が日本記念日協会に申請し認可された記念日です。ただでさえ珍しい発酵にまつわる記念日が2つもあることからも伺えるように、日本人と発酵食品は非常に切っても切れない関係にあるといえます。本日はそんな記念日にちなんで、発酵食品をテーマに掘り下げていきたいと思います。
ところで皆さんは「発酵食品」という言葉を聞いて、まず何を頭に思い浮かべるでしょうか?ワイン?チーズ?昨今はプロバイオティクスを食事に取り入れる方も増えているため、その関係でヨーグルトやKombuchaのような発酵食品が頭に浮かぶ方も多いかと思います。しかし、当ブログのメインテーマであるラーメンも、発酵食品とは切っても切り離せない関係にあることはご存じでしたでしょうか?
実はラーメンが生まれた日本は、世界でも有数の発酵食品の宝庫として知られています。醤油、味噌、日本酒、鰹節、納豆など、皆さんが真っ先に思い浮かべる日本の食文化を代表する食品や調味料は、実のところ発酵食品や発酵調味料であることが多いのです(ですので発酵に関する記念日が2つも制定されているのも納得です)。そんな日本で生まれたラーメンが発酵食品と無縁ではいられません。発酵とラーメンにはどのような関係があるのでしょうか?本日はこの辺りも深く切り込んでみたいと思います。

 

  • Index

 

■そもそも発酵って何?

ヨーグルト

 

まずは発酵という現象を学術的に定義してみましょう。生物学的に発酵とは「微生物が有機物を分解しエネルギーを得て繁殖する過程で別の物質に変化させること」を意味します。この説明だけではあまりピンとこない方も多いと思いますので(私もそうです!)、最も古い発酵食品の一つであるヨーグルトを例にとって説明しましょう。ヨーグルトは牛乳(有機物)に乳酸菌(微生物)を加えることで生成されるのですが、その際に長期保存が可能な性質や消化吸収に優れた性質など、本来牛乳が持っていなかった性質を帯びることになります。これが発酵という現象です。ちなみにヨーグルトの例は、微生物が有機物を分解する過程で得られた事象が、たまたま人間にとって好ましかったケースであり、もしこの事象が、食べ物が腐る、カビが生えるなど不快なものであれば「腐敗」というレッテルを張られてしまいます。実は発酵も腐敗も、元をたどれば「微生物の繁殖」という共通の現象を共有しているのです。ここまでいろいろと堅苦しい内容を述べてきましたが、つまり、食品に微生物が付着して、繁殖した際に人々にとっていいことが起これば「発酵」、悪いことが起これば「腐敗」と大まかにとらえていただければ、まず間違いないでしょう。
発酵と人類の関わりは非常に長い歴史を持っています。例えば、紀元前10,000年ごろには北アフリカでヨーグルトが作られていたことが記録に残っています。またメソポタミア地方の遺跡からは7,000年~8,000年前にはワインを作っていた形跡が発掘されています。人類が発酵を利用するようになってから今日まで、発酵が人類にもたらした恩恵は数えきれないほどあります。中でも興味深いのは、微生物の繁殖によって起こる発酵・腐敗を、人類は長い年月をかけて発酵のみを選りすぐり、その利便性を享受することができるようになったことです。おそらくその過程では多くの試行錯誤や偶然の成果もあったことでしょう。発酵と腐敗の見極めを誤って、腐敗した食物を口にしておなかを壊した人も数多くいたかもしれません。しかし、その困難を乗り越える価値が発酵という事象にはあったと思います。このように発酵と人類の長い関係に思いを馳せると、普段何気なく口にしているヨーグルトやパン(これも発酵食品です)もなんだか特別な食べ物のように思えてきますね。

 

■発酵食品のメリット

納豆

 

先の章では、発酵という事象が、微生物を介して人類にとって食品に良い変化をもたらすことについて触れました。それでは具体的に、発酵にはどのようなメリットがあるのでしょうか?まず挙げられるのが、発酵がもたらす食品保存効果です。このメリットが注目されたのは、人類が狩猟や採集により食料を得ていた時代に、農業や牧畜など食料生産性が増し、余剰食料品を保存する必要性が出てきたからだといわれています。発酵がどのように食料保存効果をもたらすかについては、こちらもヨーグルトを例にとって解説してみましょう。ヨーグルトを作るときに使用される乳酸菌は、牛乳に含まれる乳糖を分解することで大量の乳酸を作り出します。乳酸が多く含まれるヨーグルトは酸性となり、腐敗のもととなる雑菌の繁殖を抑えることができます(雑菌は中性~ややアルカリ性の環境を好みます)。このことを経験し理解した人類は、まず食物の保存手段として発酵を取り入れたのです。
次に挙げられるのが、発酵の持つ食物の消化吸収を助ける効果です。ここでは大豆を例にとってみましょう。大豆は肉や魚が手に入りにくかった地域に住む人々にとって、貴重なタンパク源でした。しかし大豆には繊維質が多いため、そのまま摂取しても効果的にタンパク質を消化吸収することが難しくなっています。そこで生み出された方法の一つが納豆です。納豆はその製造過程において、加熱した大豆に納豆菌を繁殖させます。そのことでタンパク質の一部を分解し、消化吸収を助けます。ここで説明した事象は、生物学が飛躍的に発達した19世紀以降、徐々に解明されたことですが、昔の人々はこのような効果を経験的に理解していたのですからすごいですね。
そして最後に注目したいのが、発酵がもたらす、味わいや風味を豊かにする効果です。実は、ラーメンに果たす役割が最も大きいのは、このメリットではないかと考えられます。理由は、ラーメンスープの調味料としてよく用いられる醤油と味噌が、発酵のもたらす「風味を増幅させる効果」の恩恵を十二分に受けているからです。醤油と味噌は、ともに大豆を原料とした発酵調味料ですが、それぞれの発酵過程で、大豆に含まれるタンパク質を微生物がアミノ酸に分解します。アミノ酸はうま味の元であるグルタミン酸を含んでいますので、このうま味がもたらす味わいの豊かさが、人々の心をとらえたことは想像に難くありません。そして醤油と味噌は最終的に日本食文化にとって欠かすことのできない調味料となり、ラーメンが日本で誕生する際も、スープの味わいを決定するうえで重要な要素となったのです。

 

■日本にはなぜ発酵食品が多いのか?

大豆、醤油、味噌

 

冒頭で述べた通り、世界と比較すると、日本には非常に多くの種類の発酵食品、発酵調味料が存在します。日本酒、醤油、味噌などメジャーなものから、鰹節、塩辛、くさやなど少しマイナーなものまで枚挙にいとまがありません。なぜ日本はこのように数多くの発酵食品を生み出すことができたのでしょうか。そのことにお答えする前に、今一度発酵が「微生物が有機物を分解し、エネルギーを得る過程で別の物質に変化させること」であることを振り返ってみましょう。ここで述べられている「微生物」とは、主に以下のものを指します。

  • 細菌(乳酸菌、納豆菌など)
  • 酵母菌(パン酵母、ビール酵母など)
  • カビ(麹菌、アオカビなど)

次に、西洋と東洋の発酵食品の違いについて軽く触れておきたいと思います。ヨーロッパを中心とした西洋では、肉や魚、乳などを使った発酵食品が主に嗜好されています。代表的なものとしては、乳酸菌を用いたヨーグルトやチーズ、酵母菌を用いたワインやパンです。それに対して、東洋の発酵食品の特徴として挙げられるのが、発酵の際、カビの一種である麹菌を使用することにあります。これは東アジア圏特有の発酵技術で、東洋に属する日本でも麹菌を用いた発酵技術が中国や朝鮮半島から伝えられ、独自の発展を遂げました。
この「麹菌」を用いた発酵技術を採用したことが、日本で数多くの発酵食品を生み出すことができた大きな要因となっています。先にお伝えしたとおり、麹菌はカビの一種であり、一般的にカビは湿気の多い環境でよく繁殖します。そのことが温暖湿潤な日本の気候とうまくマッチし、結果的に麹菌の繁殖が使用される発酵食品の製造が盛んになったというわけです。
さらに興味深いのは、日本の発酵過程で使用される麹菌が、伝来元の中国や朝鮮で使用されていたクモノスカビやケカビの一種ではなく、日本特有のニホンコウジカビ (A. oryzae) とショウユコウジカビ (A. sojae) であることです。この点が、日本の発酵食品が他のアジア圏の発酵食品と異なる味わいを持つ、大きな一因となっています。なお、これらの麹菌は日本の食文化に大きく貢献したことが認められて、日本醸造協会から「国菌」として認定されています。国からお墨付きをもらった菌ということは、それだけこの麹菌を用いた発酵食品とその製法が、日本人にとって重要なものだと考えられているといえるのではないでしょうか。

 

■ラーメンと発酵の関係

醤油ラーメンのスープをすくったレンゲのアップ

 

ここまでで日本において発酵食品のバリエーションが豊富である理由について述べてきました。それでは次に、こうしたユニークな土壌で生まれた、日本の発酵食品とラーメンの関係について注目してみましょう。まず注目したいのはスープに利用されている醤油です。以前の記事(ラーメンっていったい何だろう? 要素と歴史を押さえればラーメンの“今“が見える!)では、日本でラーメンが誕生した際に、日本に進出した中国の料理人が、ラーメンを日本人の好みの味付けにしようと試行錯誤をした点について触れました。その際に、日本独自の麹菌を用いて製造された醤油が選択されたのは非常に興味深い点です。このことで、ラーメンが単なる中国由来の麺料理の模倣に終わらず、日本独自のアイデンティティを勝ち取ることに成功したと言えます。
また、スープだけではなく、発酵がラーメンに関わっている部分は他にも随所に見られます。例えば、麺の生成においてもその熟成プロセスが重要とされています。麺は3~5日寝かせることで、小麦粉に含まれるでんぷんを分解する酵素(アミラーゼ)やタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が活発に動き出します。そうすることで、出来立ての麺よりも甘みやうま味が増すと言われています。そしてこの熟成プロセスには発酵が大いに関わっています。
更に、ラーメンのトッピングとしてポピュラーなメンマも、発酵食品であることはご存じでしたでしょうか?メンマは麻竹と呼ばれるタケノコを乳酸菌で発酵させることによって、その独特の歯ごたえとうま味を獲得しています。
このようにざっとラーメンの構成要素を概観するだけでも、発酵というプロセスがいかにラーメンと密接に結びついているかがよくわかりますね。このことから、ラーメンもまた人類が育んできた発酵がもたらした食文化に支えられているといえるのではないでしょうか。
もちろん我々Myojo USAの商品ラインナップにおいても、日本を代表する発酵調味料である醤油、味噌が大いに活躍しています。今回紹介した発酵食品に関する記事を読んだうえでこれらの商品を味わってみると、また一味違った印象を持たれるかもしれませんね。

 

Myojo USAで醤油を利用した商品

 

Myojo USAで味噌を利用した商品

 

■結論

本日は「発酵」という側面からラーメンの魅力を掘り下げてみました。皆様はどのような感想を持たれましたでしょうか。特に興味深いのは、日本の食文化が発酵食品をベースに長い時間をかけて築き上げられたものであるという事実と、その伝統的な食文化を代表する一品である醤油が中国からもたらされたラーメンに利用され、日本で人気を博したという歴史的な流れです。以前の記事(アメリカのラーメンブームはどこに向かうのか?大胆にも未来予想してみました!)でも、ラーメンが持つ特性として、あらゆる食文化に適応できるフレキシビリティについて触れましたが、それもそのはず、ラーメンはその生い立ちから「中国の食文化×日本の食文化」という異文化コミュニケーションをすでに果たしていたのです。
また、今回の調査を通じて世界各国の様々な発酵食品に出会うことができました。その中から、近い将来ラーメンに応用されるかもしれないものをいくつかご紹介します。

 

テンペ

テンペはインドネシアで昔から親しまれている発酵食品です。大豆にテンペ菌を混ぜ込んで発酵させることで作られます。形はブロック状で、納豆に近い風味を持っていますが、糸を引くこともなくクセがないので納豆が苦手な方にもお試しいただけるのではないかと思います。ラーメンへの利用方法としては、特にベジタリアンラーメンを作るときのチャーシューや、その他肉類・魚類などのタンパク質食品の代用品として利用することが検討できるのではないでしょうか。
 

テンペ

 

アンチョビ

アンチョビは、下処理したカタクチイワシを塩漬けして発酵・熟成させた食品で、イタリア料理ではピザやパスタの味のアクセントとして利用されることが多い発酵食品です。このうま味が凝縮されたアンチョビを、どうにかラーメンに応用できないかと考えたときに見つけた料理が、アンチョビを使用したディップソースに野菜をつけて食べるバーニャ・カウダです。アンチョビのうま味とニンニクの効いたディップソースが、つけ麺のたれに合うのではないかと考えていたところ、日本ですでに作られた方がいらっしゃいました!こちらの記事を拝見したところ、想定していた内容をはるかに超えるクオリティで非常においしそうです!残念ながら期間限定メニューのようですので、この記事を読んで興味を持たれた方がいらっしゃいましたらぜひ自作でチャレンジしてみてください!
 

バーニャ・カウダ

 

サワークリーム

最後にご紹介したいのが、サワークリームです。サワークリームは生クリームに乳酸菌を加えて作る発酵食品です。数年前に日本でサワークリームを利用した「サワークリームオニオンラーメン」のレシピが人気を集めたこともあり、この場で取り上げさせていただきました。サワークリームオニオン味のポテトチップスや、French Onion Dipなど、もはやアメリカの定番のメニューとして人気を集めていますので、サワークリームオニオンラーメンもアメリカで人気を集める可能性は大いにあり得るのではないでしょうか!
 


 
それでは本日の記事は以上となります。次回もラーメン好きの方にとって興味津々な情報をお届けする予定ですので、期待して待っていてくださいね!

 

参照リンク:

8月5日は「発酵の日」です。夏バテ防止に栄養補給に、日本の発酵食品を!(季節・暮らしの話題 2018年08月05日) – 日本気象協会 tenki.jp
8月5日「発酵の日」、8月8日も「発酵食品の日」。お酒にも関係が深い「発酵」についてもっと知りたい。 | 家飲み、おうち居酒屋がもっと楽しくなるブログ
発酵食品 – Wikipedia
麹 – Wikipedia
麹菌とは|発酵のきほん|みんなの発酵BLEND
日本の発酵食品の種類と歴史について | 通信教育講座・資格の諒設計アーキテクトラーニング
なぜ人は発酵食品を作るのか〜発酵食品の仕組みと科学〜|発酵日和 普段の生活で発酵を楽しむ。コツやレシピ満載の発酵Webメディア。
日本の発酵食品が有する世界的な文化価値|アド・スタディーズ|公益財団法人吉田秀雄記念事業財団
インドネシアの発酵食品「テンペ」とは?絶品レシピ12選も要チェック! – macaroni
アンチョビとは?栄養豊富で少量でも濃厚なうま味|【公式】まごころケア食
リュウジさんの「サワークリームオニオンラーメン」。新しい学びがありました – ていねいな暮らし、あきらめました。
French onion dip – Wikipedia
【クックドア】熟成麺|ラーメン屋用語集
History of Fermentation Around the World | Stacker
History and Biochemistry of Fermented Foods