中華、日本、タイ、インド、ベトナム、韓国など、アジア料理が現在アメリカで大人気の理由

様々なアジアンフード

全国のラーメンファンの皆様、お待たせしました。今回もラーメン好きの方の好奇心を刺激するような興味深いお話をお届けします!今回のテーマは大きく「アジア料理」です。私たちが普段ブログのトピックとして取り上げているラーメンや焼きそばも、もちろんアジア料理に含まれますが、今回の記事では視点を広げて、広くアジア料理全般が現在どのようにアメリカで受け入れられているのかを考察していきたいと思います。

まず、アジア料理に関して過去を振り返ってみましょう。例えばアジア料理の一角を大きく担う中華料理は、ゴールドラッシュのあった19世紀にサンフランシスコで既に誕生していました。また、他のアジア料理でいえば20世紀初頭にはアメリカで寿司が食されていたという文献があります。さらにPew Researchの調査結果によりますと、現在ではアメリカの実に73%のカウンティにおいて少なくとも1件のアジア系レストランが存在しているようです。このように、アジア料理がアメリカに上陸してから実に長い年月が経って十分に全国に浸透しているということ、そして現在のアメリカ人にとってアジア料理はそれほど珍しいものではなくなってきているということが分かります。そんな中で、実は近年そのアジア料理の人気が急激に上昇しています。 InstagramやTikTokなどでは「ビリアラーメン」や「ベトナムピザ」など度々アジア料理由来のレシピが注目を集めており、都市部ではアジア系スーパーマーケットを見つけることも以前ほど難しくありません。また、最近では一般的なスーパーマーケットでも、アジア系の食材や調味料を取り扱うことは、あまり珍しいことではなくなってきています。このようなことからもアジア料理人気の過熱ぶりがうかがえます。

今回は、そんなアジア料理の人気がなぜ今になって急激に沸騰しているのか、その理由に迫ってみたいと思います。

 

  • Index

 

■理由その1:本格的なアジア料理への受容拡大

タイの水上マーケットで舟から物を売る女性

 
冒頭で、今回取り扱うトピックを「アジア料理」と特定しましたが、実はこれは非常に曖昧な言葉です。ここには中華料理や日本料理も含まれていますし、タイ料理やインド料理、韓国料理も全て「アジア料理」という総称の中に含まれます。インターネットが一般的になる前は、こうした食に関する細かい情報を得る手段が限られていたため、現在に比べ各アジア料理の境界がより曖昧でした。また多くの本格的なアジア料理はスパイシーかつクセが強いために、アメリカで受け入れられるには現地の嗜好に合わせて改良を加えられたメニューを考案することが必須課題でした。例を挙げると、中華料理におけるGeneral Tso’s ChickenやChop Suey、日本料理におけるカリフォルニアロールがその代表格といえます。そのことがアメリカ人のアジア料理受容を高めた半面、各アジア料理のルーツを曖昧にしてしまった可能性もあります。ところが近年のインターネット並びにSNSの発達によって本格的なアジア料理に関する情報に対するアクセシビリティが格段にアップし、アメリカにいながら手軽に異国の料理情報を現地での体験も含めて楽しむことができるようになりました。またアメリカならではの特性として、アジア系アメリカ人二世が自分のルーツとなる料理を積極的にSNSで発信していることも、アジア料理に対する好奇心の喚起に貢献したのではないかと考えられます。このような情報に興味を持ったことにより、アメリカ人は次第に「アジア料理」という曖昧な概念の中から「日本料理」「韓国料理」「タイ料理」「ベトナム料理」と自分の嗜好性にぴったり合う料理を見出していったのです。さらに中華料理に関していえば「四川料理」「上海料理」「福建料理」「湖南料理」と細分化して料理を探求することも一般化してきました。その過程で、アメリカ人の味覚は徐々に本国で味わえるような本格的なものを求めるようになっていったと考えられます。ちなみに、前章で参照したものと同じPew Researchの調査によりますと、アジア系レストランの中で最も多く提供されているのは中華料理(39%)で、次いで日本料理(28%)、タイ料理(11%)という結果が出ています。この調査結果ではマレーシア料理やインドネシア料理は明記されていませんでしたが、インターネット経由での情報の浸透が進むにつれて、こうしたジャンルにもいずれスポットライトが当たるようになることは想像に難くありません。

 

■理由その2:COVIDの影響

自宅で自主隔離中の女性

 

COVIDが私たちにもたらした非日常的な生活の変化は、皆様の記憶に新しいところだと思います。その中で特にインパクトの大きかった出来事の一つとして「レストランで外食ができない」ことを挙げる方は、特にこのブログを読まれている方であれば多いのではないでしょうか。実はこのCOVIDもアジア料理への注目を間接的に高めた一要因といわれています。というのも、外食を禁じられた人々は必然的に自炊を行うことになりますが、次第に普段のレパートリーに飽きてしまいます。そのような状況下で、これまでインターネットや数々のSNSで得た情報をきっかけに興味を持った、普段使わないような本格的なアジア系スパイスや調味料にチャレンジしてみた方が結構多いようなのです。こうした特殊な調味料も、チャイナタウンやコリアンタウンなどのコミュニティが近所にあるところであれば、コミュニティ内のスーパーマーケットで手に入りますし、近所にこうした場所がなくてもAmazonなどのオンラインマーケットでも容易に手に入るようになりました。レシピも同様に、少し検索しただけでお目当てのものが簡単に手に入ります。リモートワークで家に閉じこもることが多くなっていたことも相まって、こうした状況が逆に普段作らないような料理を試す「Kitchen Experiment」を行う機会をもたらしたようです。

 

■理由その3:アジア料理をベースにしたフュージョン料理の流行

コリアンタコス

 

アメリカ人が本格的なアジア料理への関心を高めていったのと対照的に、同時期に発生したアジアンフュージョンフードの流行も見逃すことはできません。そのきっかけとなったのはおそらくロイ・チョイが考案した「Korean Tacos」でしょう。韓国生まれのプルコギやキムチをメキシコ由来のトルティーヤで挟んだKorean Tacosは、間違いなくコリアンカルチャーとメキシカンカルチャーの交差する多様性の街ロサンゼルスでなければ生まれることのなかった一品であるといえるでしょう。こちらはもちろん伝統的な韓国料理やメキシコ料理の枠には収まらず、決して本格的なアジア料理とは呼べませんが、かつてのGeneral Tso’s Chickenやカリフォルニアロールのようにこれまでのアメリカ人の食の嗜好性に合わせるために開発されたのではなく、むしろこれまでにない新しい味覚を切り開いて人々を驚かせようとするイノベーティブな野心を感じます。このような食の可能性を広げようという冒険心が、自分たちにとって今まで未知の領域であった本格的なアジア料理を積極的にトライしてみようという方からも受け入れられている理由といえるかもしれません。同様のコンセプトで作られたアジアンフュージョンフードには、Banh Mi Tacos、Thai Green Curry Empanadas、Sushi Burritoなどが挙げられます。以前当ブログでご紹介したビリアラーメンもこの範疇に数えられるかもしれませんね。

 

■理由その4:ジェネレーションZ(Z世代)からの支持

ソーシャルメディアを楽しむZ世代

 

アジア料理が近年ブームとなっている理由として、一番大きいと考えるのはジェネレーションZの存在です。ジェネレーションZとは1997年から2012年頃の間に誕生した世代で、生まれた時からインターネットに触れてきたいわゆる「デジタルネイティブ」です。彼らはSNSを使いこなし、当たり前のように情報収集や情報拡散する特徴を持っています。さらに米国では$360 billionの購買力を持っているといわれており(参照:BBC)、消費者マーケットで大きな存在感を放っています。さらに彼らには非常に興味深い特徴があります。それは食べることに多くのお金をかける傾向が強い、ということです。特に男性に関しては洋服よりも飲食にお金をかけているようで、そんな彼らの世代を「Foodie Generation」と呼ぶ人もいます。それではなぜ彼らがそれほどまでに「食」に多くの興味を持つようになったのでしょうか。理由としては先に「理由その1:本格的なアジアンフードへの受容拡大」で上げた通り、やはりインターネットやSNS経由での食に関する情報の膨大な摂取が挙げられます。しかもこの世代においては生まれた時からインターネットが自然と家庭環境に浸透していたので、そこからの情報収集からの影響力は先の世代と比較しても大きかったのではないかと想像できます。さらに、彼らが子供のころに触れたTop Chef、MasterChef Junior、Food Network、Cooking Channelなどの料理に関するTVプログラムからの影響も無視できません。こうした食に関する濃密な情報を浴びて育った彼らは、自分たちの食に関する選択がひいてはアイデンティティの提示につながると考えるようになるまでに、食に対する強いこだわりを持っています。そして、それが彼らのサステナビリティや動物福祉に対する意識の高さにもつながってくるわけなのです。
では、なぜ彼らジェネレーションZはアジア料理を支持するようになったのでしょうか。考えられる理由を、今回5つ挙げてみました。
まず1つ目の理由として、「アジア料理に対する偏見がない」事が挙げらます。すでに世界各地の料理に関する情報をインターネットを通じて知っている彼らは、国を問わず料理をおいしいかおいしくないかの二軸でフラットに評価するマインドセットを既に持っています。
次に2つ目の理由として、彼らの「スパイシーな味わい対するこだわり」が挙げられます。この世代は先の世代と比較しても特にスパイシーフードへの関心が高く、コチュジャンやガラムマサラ、麻辣醤など数多くのスパイシー調味料を使うアジア料理は彼らにとって注目すべきジャンルだと捉えられているようです。
3つ目の理由としては、彼らの健康への関心の高さが挙げられます。特にプロバイオティクスの観点からアジア料理の中でも韓国のキムチ、日本の納豆、インドネシアのテンペなどの発酵食品に注目が集まっています。
4つ目の理由は、先の健康への関心の高さとも関連しますが、彼らのビーガン&ベジタリアン食に対する関心の高さが挙げられます。一部のアジア料理は野菜など自然食品をふんだんに使用した料理という印象が強く、また豆腐やセイタン(グルテンミート)など、ビーガン需要に対応したたんぱく質の種類も数多くあることも手伝って、彼らの注目がアジア料理に集まるようになったのだと推察されます。
最後に5つ目の理由は、彼らがアジア料理に求める「ユニークな食体験」です。これは、コリアンBBQ、しゃぶしゃぶ、火鍋など、一つの調理器具を仲間で囲み食材を自分自身で調理する形の調理形態のことを指します。このような経験はほかの料理ではなかなか味わえないこともあり、食事の際、仲間との交流を重視する彼らの特徴とも相まって、アジア料理が支持される要因の一つとなっているようです。

 

■近年のアジア料理人気を象徴する食材、調味料

最後に、本格志向かつ新しいもの好きのアジア料理ファンに応えるべく、近年になって脚光を浴び始めた食材や調味料をいくつかご紹介したいと思います。いずれも以前はあまり知名度のなかったものですが、既存のメニューに対する合わせやすさも相まって近年注目度がどんどん増しています。この中であなたが既に試したものも見つかるのではないでしょうか。
 

・Chili Crisp

Chili Crisp

 

Chili Crispはフレーク状の唐辛子やニンニク、玉ねぎを刻んだものを油で混ぜ合わせたもので、1997年に中国で誕生しました。アメリカで一躍人気になったのはCOVIDの頃で、ブランドではFly By JingやMomofukuのものが有名です。この人気の理由は、先述した「Kitchen Experiment」のニーズにChili Crispが自宅での大きく応えられたことにあるのではないかと思われます。またこのChili Crispは誕生して間もないため、オーソドックスなところでは餃子から始まり、ピザ、パスタ、卵焼き、アボカドトーストなど伝統に縛られることなくあらゆる組み合わせが試みられていることも特徴的です。中には果物やアイスクリームに添える食べ方も試みられており、このことはChili Crispであらゆる「実験」が積極的に行われたことを示唆していますね。
 

・Gochujang

コチュジャン

 

コチュジャンは唐辛子粉ともち米などを混ぜ合わせて発酵させた韓国生まれの調味料です。発酵調味料であることから、辛さの中に独特の深みと甘みを感じる点が特徴です。生まれ故郷の韓国でも鍋物から炒め物まで幅広く使用されていることからも分かる通り、こちらも料理との組み合わせやすさではChili Crispに引けを取りません。サラダのドレッシングからシチューの隠し味、肉の漬け汁やスナックのディップなど、コチュジャンの活躍の場は実に多彩です。コチュジャンは一部では「next sriracha」と評価されていますが、どんな料理に合わせてもその料理を引き立てることができるポテンシャルを持っている事を考えるとその評価もうなずけます。
 

・Hojicha

ほうじ茶

 

ほうじ茶は日本で飲まれているお茶の一種で、実は緑茶と原材料は同じです。緑茶との違いは、緑茶は製造過程において茶葉を蒸すのに対し、ほうじ茶は茶葉をローストする点です。そのことによってほうじ茶は緑茶にない独特の香ばしさを持つことになります。ほうじ茶は日本で長らく愛飲されてきましたが、緑茶よりも目立たない存在でした。ところが、ほうじ茶とミルクフレーバーの相性が抜群であることが発見されたことで、主にラテを提供するカフェやタピオカドリンク店などで人気を集めます。アメリカではほうじ茶ラテの形で提供されることが多く、近年はカフェでもスタンダードメニューとして定着してきています。抹茶よりもカフェインが少ないことから、カフェイン摂取量を気にされている方からの支持も集めているようです。
 

・Ube

ウベ

 

ウベはヤムイモの一種で鮮やかな紫色が特徴です。そのまろやかでバニラのような風味が好まれ、ウベの消費量が特に多いフィリピンではケーキやアイスクリームによく用いられています。ウベはアメリカでも瞬く間に人気を獲得し、ウベがもたらす紫色が自然食材由来である事から添加物を気にしている消費者からも受け入れられています。これまでにブラウニーやチーズケーキ、パイ、ティラミス、タルト、ドーナツ、クッキー、パンケーキ、カップケーキなど様々なデザートレシピでウベが使用されており、それぞれのメニューにおいてこれまでにあまり見られなかった紫のカラーバリエーションが多くの人々の関心を集めています。

 

■結論

今回はアジア料理が近年アメリカにおいてどのように受け入れられているのか、またなぜ人気を集めているのかを様々な角度から考察してみました。皆様はどのように感じられたでしょうか?インターネットによって世界各国のあらゆる食情報が解放されたことと、そのことがもたらした各国の本格的な料理に対する好奇心の高まりが、アメリカにおけるアジア料理の大きなブレイクのきっかけになったと感じています。ラーメンの例で考えれば、今では一番人気の豚骨ラーメンもかつてはその癖の強さから、とてもアメリカ市場で受け入れられないだろうと思われていました。ところが本格的な味わいを楽しみたい、というアメリカ国内需要の高まりがそんな固定観念をいとも簡単に跳ね返してしまったのも、近年のアジア料理ブームを象徴する一つの出来事だったのではないかと思います。
また今回はアジア料理に限定して調査を進めていきましたが、その中で一つ発見したことがあります。それは「時代は違えど人々は新しい食べ物を求めている」というゆるぎない事実です。インターネットの登場はその事実を加速させただけに過ぎないのではないかとも感じています。これからもこうした人々の好奇心をドライバーとしてアジア料理に限らず様々な料理がブームを起こすことでしょう。私たちもそんなブームをこれからも興味深く観察していきたいと思います。
次回も皆様が興味を持ちそうな情報を用意しておりますので、引き続き当ブログをお楽しみください。それではまた!

 

参考リンク:

Analysis: Asian Food Winning Over America – The Food Institute
Most Asian restaurants serve Chinese, Japanese or Thai food in the US | Pew Research CenterMost Asian restaurants serve Chinese, Japanese or Thai food in the US | Pew Research Center
This History of Asian Food In AmericaThis History of Asian Food In America
How kids of immigrants made Asian food the most popular cuisines on social media
Asia Cuisine Market Size, Share, Growth and Forecast 2030
The Rise of Asian Flavor Trends: A Closer Look – T. Hasegawa U.S.A.
Gen Z Food Preferences
What Gen Z Wants: A Look Inside Their Food Preferences – Hospitality News
Young America’s Favorite New Ethnic Foods
Gen Z Food Trends: Trending Flavors And Ingredients
Majority of Gen Z Believe What They Eat Defines Their Identity | Big Village
Why Is Chili Crisp So Popular Right Now? – Valley Table
What is gochujang? A whole load of awesome | Marion’s Kitchen
Hojicha: The World’s Favorite Roasted Green Tea – Japanese Green Tea Co.